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泣き虫忍者の日記帳(SicxLives ~Link&Link&Link~)
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焔の月 十一日目


 窓の外が白み始めた。
 もうすぐ夜が明けるみたいだ。

 どれくらい眠っていたんだろう?
 妙にすっきりとした気分だった。

「ん……」

 布団の中で寝返りを打つ。
 暖かな布団の中に居ると、なんだか幸せな気分になる。
 このまま起きてしまうのはもったいない気がした。

 ……二度寝決定。

 なんだか癖になりそうだ。
 あんまり良くないなぁ、とも思ったけど、気持ちがいいんだから仕方ない。

 起きたら今日は、何をしよう?

 ぽつぽつと、幾つか思い浮かんだけれど、結局、何でも良かった。
 二人と一緒なら、何でも楽しそうだから、なんだっていい。

 きっと今日も、楽しくなる。
 なんの根拠もないけれど、そう思った。



 頭の上を飛び回って鬱陶しい、大きな鷹を撃ち落して、町に戻ってきた。

 町の近くはもう大体探索し終えてしまった気がする。
 新しい情報も手に入らなかったし、そろそろ違う町を目指したほうがいいのかもしれなかった。

「……ホワイトデー、かぁ」

 それでも一応はと話を聞いて歩いていると、そんな話が聞こえてくる。
 どうやら今日はホワイトデーになるらしい。
 昨日はバレンタインデーだったのに、続けてホワイトデー。
 私にはちょっと違和感があったけど、この世界ではそういうものらしい。

 けど、お菓子作りの口実には丁度良かった。

 ホワイトデーはバレンタインのお返し、って言うのが相場だけど、別にそうでないといけない決まりもない……と、思う。
 お菓子作りには前から興味あったし、教えてもらえそうだし。
 あ、けど渡す相手がいないなぁ。まぁお茶請けにでもすればいっか。

 ……でも、折角だし。

 一昨日もあげたけど、またあげたって、いいよね? 逆チョコがあるんだし、ありだよね。
 うん、そうしよう。それがいい。

 昨日は迷惑かけちゃったし、心配もさせちゃったし。
 そのお詫びとお礼を兼ねてならばっちりだ。

 そんな事を考えていると、シンシアさんが歩いてるのを見つけた。
 なんて好都合なんだろう。今なら三郎さんもいない。
 私はわき目もふらず、シンシアさんに駆け寄った。

「シンシアさん……っ! 私にクッキーの作り方、教えてくださいっ!」

 振り向いたシンシアさんは、いつもより少し目を大きくして、私を見ていた。



 私とシンシアさんは、一度宿に戻って幾つか準備をした後、二人で町の外へ向かった。
 丁度いい厨房が借りられなかった事もあるけれど、「道具は揃っているから火が使えれば何とかなるだろう」と、シンシアさんが言ったのだ。

 三郎さんも付いて来ようとしていたけど、そこは断って置いて来た。
 仲間はずれにされた! って拗ねる三郎さんには申し訳なかったけれど、三郎さんが一緒だと、意味がないのだから仕方がない。
 ……でもちょっとかわいそうだったから、渡す時に謝ろう。

 ――で、肝心のクッキー作りだけども。

「うぅ、失敗……」

 目の前には黒く焦げたナニカとか、形の崩れたナニカとか。
 どうみても失敗していた。

「初めてだからこんなものだろう。材料も良い物とは言えないし」

 ……なんて、シンシアさんはなんだか珍しく楽しそうにしていたけど。

 でも、失敗したとは言っても大体のところは覚えたし、次は多分大丈夫!
 それに材料も多めに用意したし、もう少しなら失敗も出来るし、ね!

 ――そして、

「よし、思ったより形になったな。環境を考えれば上出来だろう」

 目の前には沢山のクッキーが。少なくとも、『クッキーらしく見える物』が並んでいた。
 シンシアさんはその中でも形が悪いものを選んで、一つ口に運ぶ。……どうやらそれなりには出来たみたいだ。

「……なんとか形になってよかったです」

 私も一つ手にとって食べてみた。
 ……すごく苦かった。

「お菓子作りって思ったより難しいですね」

 焦げたクッキーを我慢して飲み込む。
 環境に恵まれていないアンジニティ。焦げたとは言え、無駄には出来……出来な……。
 埋めてしまいたい。

「糖分は焦げやすいからな。私も最初はよく焦がしたものだ」

「最初は、その……ごめんなさい」

 その最初の犠牲を手に取りながら、謝った。
 一回目に作ったのが少しでよかった。最初から沢山作ろうとしてたら、もっと酷い事になっていたかもしれない。
 きっとシンシアさんが面倒を見てくれなかったら、失敗はこんな少量じゃ済まなかったと思う。それに、シンシアさんと一緒にやれたから、

「でも、シンシアさんのお陰でちゃんと作れるようになりました。ご指導有難うございます、先生っ」

 すごく、楽しかった。

 シンシアさんはちょっとだけ表情を崩して、

「いや、飲み込みは早いと思うぞ。素敵な生徒だ」

 やっぱり楽しそうに褒めてくれた。

「さて、食べられないほど焦げてはいないし……この場で食べてしまおうか」

 言いながら、シンシアさんも焦げたクッキーに手を伸ばす。

「そうですね」

 私も倣って二つ目を口にした。

「……でも、やっぱり苦いです」

 食べられなくはない、確かに食べられなくはないけれどっ。
 うぅ、流石に美味しくはないよ……。

「ほら、余ったミルク」

「あ、ありがとうございます」

 差し出されたマグカップを受け取って、クッキーを飲み込んだ。
 マグカップを置いて、ふと、良く出来たクッキーが視界に入る。

「……喜んでもらえるかな」

 無意識に呟いていた。
 つい、と言うのが相応しいところだ。シンシアさんには何も言ってなかったのだけど、

「心を込めて作ったものを喜ばないことは……まあないでもないがそうそうないさ」

「そう、ですよね」

 流石に気づかれていたみたいだ。
 まぁでも、誰に渡すかはまだ、ばれてないよね?
 けど、渡すときは解っちゃう、のかぁ。
 そう考えると、ちょっと照れくさい。

「ん、喜んでくれるといいなぁ」

 きっと、間違いなく、喜んではくれるだろうけれど。
 女の子からもらえるものなら、なんだって喜んで受け取るんだろうけど。
 ……私のが特別だといいなぁ、なんて。

 ――――。

 何故だろう、なんだか胸がざわついた。

「……そうだ。シンシアさんは誰かにあげないんですか?」

 気を逸らすために、シンシアさんへと話題を投げる。
 けれど、咄嗟に思いついた言葉だったから、すっかり、今日がホワイトデーだという事を忘れていた。

「……あ、でもホワイトデーだと普通はもらう側でしたね」

 少しだけ、恥ずかしくなった。
 けれど、シンシアさんは気にするふうでもなく、

「あまり余裕もないしな。この世界でもなければ沢山作って配りたいのだが……」

 そんな、ちょっとズレた回答をしてくれた。
 うん、そんな気はしてた。

「えっと、そうじゃなくて……うーん」

 なんて言ったらいいのかなぁ。
 あんまりストレートに聞くのもどうかな、って気もするし……あっ、でもシンシアさんだし……。

「その、好きな人とか、付き合ってた人とかって居なかったんですか?」

 結局、そうやって聞いてみると、シンシアさんは少し遠くを見てぼやくように、

「あー……公務に忙しくてな。そういう話には縁遠いんだ」

「公務……えっと、シンシアさんは軍人さんでしたっけ」

 確かそんな事を聞いた気がする。
 私が訊ねると、シンシアさんは頷く。

「ああ。私の部隊は『守り』に関わる部分を担当していてな」

「守り、ですか?」

「集団戦なら前線で相手の勢いを殺す役割だったり、少人数なら要人の警護や今のような盾役だったりだな」

 なるほど。
 それは、大切な役目だ。私も役目は違ったけれど戦争を経験してる。
 そういったポジションは絶対に欠かせない。けれど、

「……一番危険な場所ですね」

 私のように、敵地に潜る忍びも相当に危険だけれど、逃げる訓練も積まされる私達はなんだかんだで生き残れる事が多い。
 でも、その『守り』に使われる人達は、逃げる事は出来ないのだ。
 守る相手が居る以上、逃げる事は許されず、自ら矢面に立たなければならない。
 命の危険は、他の非じゃないのだ。

「故に、重要な部分だ。……剣を信頼しているからこそ安心してできる役割だな」

 やっぱり、シンシアさんはかっこいい。
 敵を倒す剣を信頼して、自分は盾としての役目を全うする。命を懸ける。
 仲間を信頼して、そして、信頼されて。
 それは、私には終ぞ、無かった。

「剣……」

 私は、剣にはなれそうにない。
 仲間を信じて、託して、敵の前に立てる高潔な盾とは、並び立てそうにない。
 私はどうやったところで、薄暗い影の人間なのだ。

「……私達だと、三郎さんのようなポジションでしょうか」

 だからやっぱり、盾に並び立つのは、あの人のように強くて真っ直ぐな人であるべきだ。
 私は、その光の下の二人には出来ない役目を、影らしくこなして、助けていけばいい。
 そう思った。
 でも、シンシアさんは違ったらしい。

「二人とも、だ。……信頼しているぞ?」

 シンシアさんの瞳には、私の姿が映っていた。

 その信頼が、

 ――――――。

 嬉しかった。

「あぅ……頑張ります」

 私は影の側の人間だけど。誇り高い剣でなく、薄汚い刃だけれど。
 それでも、紛い物の剣くらいには、なれそうな気がした。

 ――――。

 少し、弛緩した空気が流れた。
 話が一段落し、話が途切れる。
 その緩んだ流れに乗じて、話題を変えた。

「……でも、もったいないですね」

「何がだ?」

「だって、シンシアさん美人ですから。きっとモテただろうなぁって思って」

 そう、シンシアさんはすごく、綺麗な人なのだ。
 肌も白く、髪も瞳も鮮やかで、鎧を脱げばとても女性らしい体をしている。
 勿論、そう見えるだけで相当に鍛えられてはいるのだけども、それでもドレスを着せたら美しく映るだろう事は想像に難くない。
 凛凛しいお姫さまのように見えるかもしれない。それくらいには、綺麗な人なのだ。

 それなのに、そんな仕事をしていたら出会いも少ないだろうし、生傷も耐えないと思う。
 もしかしたら、服の下には、私のように幾つもの傷跡が残っているかもしれない。
 だとしたら本当に、もったいない。
 傷ついた宝石は、その輝きを曇らせてしまう。

 でもシンシアさんは、やはりそんな事、気にしないのだろう。

「ああ、貴族の男共から言い寄られたことは何度かあったな……結局は諦めたようだが」

 ……それでも、言い寄ってくる人が居る。
 傷ついたところで、シンシアさんの魅力は変わらないのだ。
 しかも貴族って事は、やっぱりシンシアさんはお嬢様なんだろう。案外、高貴な家柄なのかもしれない。そんな雰囲気は確かにある。

 親が煩くてな、と苦笑交じり付け加えるところを見ると、意外と箱入りなお嬢様だったのかもしれない。
 それがどうして、こんな危ない仕事をしているのか……そっか、もしかしたらそういう家系なのかも。

 けど、そうか。
 シンシアさんはどうも、実際に人気があったみたいだ。
 家柄のせいだったのかも知れないけれど、そこはやっぱり、羨ましかった。

「そうだったんですかぁ」

 私にはそんな経験がないから、尚更だった。
 シンシアさんが羨ましい……ううん、ちょっとだけ、妬ましい。
 なんだか負けたような気がしたのだ。

「うーん……そうだ。シンシアさんも誰かに渡しましょう!」

 だから少しだけ、困らせたくなった。

「少し余計に作ってますし、折角ですから」

 私がそう言うと、シンシアさんは顎に手を当てて悩み始める。

「……むぅ。誰に渡したものか」

 眉間に皺を寄せてまで考え込むシンシアさんが、少しおかしかった。

「誰でもいいと思いますよ。やっぱり好きな人とか、気になる人に渡すのが一番おもし……もとい、一番素敵だとは思いますけど」

 やっぱりその方が盛り上がるし、そもそも私の国ではそういうイベントだった。
 けれど、別にそうである必要もない。

「仲のいい友達とか、お世話になった人に渡すのも良いと思います。……私も、そうですし」

 実際、学校でもそんな人は沢山居た。
 友達同士で交換とか、日ごろの感謝の印だとか。イベントとして楽しんだり、普段素直に言えない事を伝えるきっかけにしたり。
 だから、そういうので良いのだと思う。
 難しく考えないで、その時渡したいと思った人に渡せばいいんだ。
 それも、別に一人に決める必要もない。私だって、一人だけに渡すわけじゃない。

 暫く、難しい顔で悩みこんでいたシンシアさんが、ようやく顔を上げる。

「そうだな。私は……」



 後片付けを終えて、綺麗に包んだクッキーを持って、私達は町に戻った。

 結局、シンシアさんが誰に渡すことにしたのか聞き出せなかったけれど、私も教えてないから仕方ない。
 でも、私の方はすっかりバレてるような気もする。
 ……まぁ、どうせ後でわかっちゃう事なんだからいいんだけど。

 宿の姿が見えてくる。
 近づくにつれて、早足になってしまう。

 戻ったら、一番に渡してしまおう。
 きっとすごく喜んでもらえる。

 ……気づいてもらえるかな。
 前のチョコとは違う。今日のクッキーは、少し特別なんだよ。

 私は胸を高鳴らせて、扉を開く。
 そこに在った、大きな背中に駆け寄って、声を――

「……三郎さんっ!」



 部屋に戻って、ベッドに飛び込んだ。
 軽く弾んで、沈み込む。枕に抱きついた。

 ……あぁぁぁぁぁどうしよう!

 顔が熱い。
 というかもう、体中熱い。
 きっと今の私の顔は、林檎よりも赤い。

 ――クッキーは、問題なく渡す事が出来た。

 三郎さんはもう、凄く、それはもう凄いとしか言えないくらい喜んでくれた。
 そう、すっごく喜んではくれた。
 なんだか色々と早口で言っていたけれど、とりあえず喜んでくれた事に間違いなかった。

 ……けど。

「はっはっは! ついに俺様に惚れちゃったみたいだな!」

 そう、以前のように笑いながら三郎さんが言って。

 三郎さんの手が、

 頭に、

「――――~~っ!」

 声にならない悲鳴が出た。
 ちょっと思い出すだけで、頭が真っ白になって、叫んでしまいそう。

 触れられた瞬間にもう、何も考えられなくなって。

 気づいたら、悲鳴を上げて、三郎さんを投げ飛ばしていた。

 ……何やってるんだろう私ってば。
 ううん、でも、さっきのは三郎さんが悪いよっ!
 いきなり、髪、頭……撫でてくるなんて……。

「…………」

 でも。

 三郎さんの手は、とても、暖かかった。
 暖かくて、安心した。
 なぜか凄く、安らいだ気がした。

 胸が痛いくらいに、早鐘を打っている。
 のぼせたように顔が熱い。
 どうにかなってしまいそうだった。

 自分の頭に、触れる。
 三郎さんの手を倣うように、触れる。

 ……あの暖かさには、何故だろう、覚えがあるような気がした。
 暖かくて、優しくて。
 安心させてくれる、誰かの手……。
 確かに、私はどこかで――――、

 ――――。

 一瞬、こめかみの辺りに鋭い痛みが走った。
 ……どうしたのだろう。
 なにか、思考に、雑音が――、

 ……少し、休もう。

 きっとまだ混乱してる。
 落ち着くまで少し休めば、大丈夫だ。

 触れた手の暖かさを思い出しながら、私は意識を手放した。



 ……『私』がいた。

 悲しそうな顔をして、私を見ていた。

 『私』はまだ少し幼くて、そう、多分、学校を卒業した頃の私のようだった。

 ――あなたはこれでよかったの?

 『私』が悲しそうに聞いた。

 私は緩慢に頷いた。

 ――本当に?

 もう一度、首を揺らす。
 これで良いと、良いんだと肯定する。

 ――そう。

 『私』はますます辛そうに、蹲る私を見下ろす。

 どうしてそんな顔をするのだろう。
 これで、また笑えるのに。
 これでまた、やり直せるのに。

 ――ごめんなさい。

 『私』の瞳から雫が零れ落ちる。

 私には、その意味がよく、わからなかった。

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