可愛いもの探訪記 焔の月 二日目

彼女は一人だった。自分が何者かもわからず、ただ一人だった。

――――――――――――――――――――――――――

いやはや、困ったものだ。
確か私は可愛いらしい野うさぎを追いかけていた筈なのだが。
ふむ、どうやら私の可愛いものへの執着は、ついに世界の境界すら踏み越えてしまったようだ。
はっはっは、我ながら大したものだ。
うむ。この世界にもどうやら可愛いものは多そうだ。ちょっと見ただけだがこの町にも可愛い娘が多い。
よし、ならばまずは。

可愛い娘はいないかーっ！

うむ、これでいい。
珍しく受身になるが、まだこの世界も良く知らないまま声を掛けるのは少々憚られる。あちらから来てくれる事を期待しよう。
それにどうやら、この世界における金銭を私は持っていないようだしな。
可愛い娘をデートに誘うというのに、一文無しでは格好がつかない。いや、そもそもそれでは礼を逸している。
それは紳士……いや、淑女としてあってはならないからな。

いやでもなんだ。通りすがりに挨拶するくらいなら、問題あるまい。うむ、問題ないはずだ。
というわけで……む、可愛い娘の気配！　ふふふ、挨拶だけならセーフ……挨拶だけならセーフ……。

……ふぅ。

しかし。
先ほどからなにやら注目を浴びているような気がするが……。
そうか。この世界でもやはりお前は目立つようだぞ、友よ。

む？　あの張り紙は仕事の依頼か？
なるほど、この条件を満たせば報酬が貰えるのか。うむ、悪くないな。
幸い無一文ではあるが、我が友はこの背にある。
よし、まずはこの……アップル退治？　とやらを片付けてみよう。
ふむ、アップルか。中々可愛らしい名だ。ふふふ、これは期待できそうだぞ。
うむ、うむ。幸先の良いスタートだ。