たまごブログ 別館
泣き虫忍者の日記帳(SicxLives ~Link&Link&Link~)
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焔の月 三日目
忍とは。
任務によって、その人格を演じわけ、他者を欺く。
其れ故に。彼女にとって己を偽る事は日常だった。
されど心に空いた穴だけは。
どれだけ他人を演じようと消える事はなかった。
任務によって、その人格を演じわけ、他者を欺く。
其れ故に。彼女にとって己を偽る事は日常だった。
されど心に空いた穴だけは。
どれだけ他人を演じようと消える事はなかった。
――――――――――――――――――――――――――――
「参ったなぁ。思ったよりも酷いよこの世界……」
外の様子は酷いものだった。土地は散々に荒れて、ガラの悪い人達がうろうろしている。
やってやれない事は無いと思うけれど、確実性は低い。何せ今の私は学生時代程度の身体能力しかもっていないのだから。
ただ、幸いなのは経験だけは残ってる事。戦力の問題さえ解決できれば何とか生きていけるはず。
そのためにも、私の調子が戻るまで利用できそうな人を見つけないといけない。
「……でもなぁ。変な人ばっかりだし」
さっきも大声で何か叫んでる人がいたし、出きれば関わりたくない。
……ってうわっ、目が合っちゃった。
あぁやだなぁ。つい身構えちゃったし。こんな事で協力者なんて見つかるのかなぁ。
いいや。取り合えず先にお面を受け取りに行こう。
……その後。
その変な人に不意を衝かれてしまうダなんて、思ってもいなかった。
すぐに抜け出したけど。
そして適当に脱け出して尾行していたら、目の前で巨大な盾に殴り飛ばされた拉致誘拐犯(被害者私)。
あんまりの光景に、つい飛び出してしまったのは正直忍としては失格だったと思う。……もう違うからどうでもいいけど。
ともかく。飛び出しちゃった以上、慌てて隠れるのもおかしな話。ここは被害者として堂々としていたほうがよさそう。
うーん。この人達相手なら……
「突然人を縛って拉致するのもどうかと思ったんですけど、容赦なく鈍器で殴るのもどうなんでしょう」
……こんな感じかな。
女性の持っていた盾は、近くで見るとだいぶ重そうな代物だった。
こんなので殴られて、大丈夫なのかなぁ。随分と凄い音を立てて飛んでいったけど。
そうやって、私がつい変質者さんの心配をしていると、盾を振り回していた女性が申し訳なさそうに頭を下げた。
「連れが迷惑をかけた。……ニンジャ?」
顔を上げた女性の疑問符に、ほんの刹那、思考が止まった。
「え?」
間抜けな声を出して、私は自分の格好を思い出した。
「……あ、えっと、そんなところです」
ああー、これじゃぁバレて当たり前だ。何してるんだろう私。
でも、そっか。バレたってもう関係ないんだから、警戒する必要なんてもうなかっ……
「正確には忍者ではなく、くの一だな。こんな世界にもいるもんだ。和洋中なんでもござれだな」
私の思考をさえぎって、殴り飛ばされたはずの変質者さんが起き上がってきた。
タフな人だなぁ。どうして怪我まで治ってるんだろう。
「東の国の影に生きる諜報員にして剣術・魔術共に凄腕の白兵戦能力を持つ精鋭集団『ニンジャ』……御伽噺の中のものだとばかり思っていたが……」
「あー、合ってるような外れてるようなだな……」
いえ、確かに諜報活動はしますけど、必要なのは剣術よりも暗殺術です。普通は白兵戦もしないです。……魔術ってなんだろう?
私が心の中で訂正していると、変質者さんが私を眼を細めて指差した。
「……んで、そっちの。先に武器に手をつけたのはそっちだってのはちゃんと解ってるよな?街中で目が合っただけで構えられる覚えはさっきまでなかったんだが……?」
「あ……それは、その、すみません」
言われてみればその通りだった。確かに凄く、ものすごーく変な人ではあったけど、別に私に害意があったわけじゃない。
まぁそうは言っても変な人は変な人だ。
「でも、街中で変な事を叫んでた人には、警戒するのが普通だと思うんですけど……」
不審者が近くを通れば、普通の人は誰だって警戒すると思う。この際、私が普通じゃないというところは置いておく。
「記憶にないな……ただ、可愛い女の子に声をかけるからよろしくぅと考えていたのは確かだが……」
本当に思い出せないのか、眉間に皺を寄せている変質者さん。
もしかして、思っていたことがつい口から出ちゃったーとかいう、駄目な人のパターンなのかなぁ。
「……しかし、あの時キミと瞳が合ったのも何かの運命かもしれないな!」
「お前の運命は道端に大量に落ちていそうだな……」
大声で運命と主張した変質者さんに、女性が呆れたようにツッコミを入れた。
「はぁ、運命ですか……」
そういえば前にも同じような事を言ってきた人が居たなぁ。その人は女性だったけど、どこかこの変質者さんと似てるところがあるかもしれない。あの人とは、ちょっと前の任務で会ったんだっけ。
当時を思い出して、少し面白くなった。
「……それで、次は『せっかくだからお茶でもどうかな?』 ですか?」
以前に言われた事を思い出して、聞いてみたけれど。
変質者さんは、あの人のさらに斜め上を行っていた。
「ええーい!
俺様をそこらの雑草と一緒にするんじゃないッッ!!」
雑草って……。私からすれば、薬草か毒草か程度の違いにしか思えないのだけど。
「……とまあ、こういう奴だ。悪人ではないんだが余計たちが悪い」
確かに、ただの悪人よりもずっと始末に終えない。
「はぁ」
諦め混じりの呟きに、思わず苦笑が漏れてしまった。
でも不思議と。
私はこの人を嫌えそうになかった。
「まぁ、確かに悪い人ではなさそうですけど」
そう。この人はただ真っ直ぐなんだ。
その方向はどこかおかしいけれど、真っ直ぐに自分のやりたい事をやっているだけ。
……そういう生き方ができるのは、やっぱり羨ましい。
「そう、だから……俺達と一緒に冒険しよう!」
そんなふうに思っていたからか、少し気が抜けていた。
「はい、決定!!」
手を握られ、肩を掴まれた事に気づいたときには。もう体が動いてしまった。
「あっ」
まずい。
「……ぁ?」
変質者さんが飛んでいった。
ううん、私が投げ飛ばしてしまった。
「ー――ぎゃふっ」
そんな悲鳴を上げて、地面にひっくり返る変質者さん。
どうしよう、結構本気で投げちゃった!
「す、すいませんっ! ついっ!」
駆け寄ってとりあえず助け起こすと、
「挨拶として……受け取っておこう……合格……」
変質者さんは呻きながらそう言って、気を失ってしまった。
一体何の合格ですか。取り合えず意識が無いくせに手が足を触ろうとしてきたので、少し強めに叩き落とす。
たくましいなぁ、この人。
変質者さんは適当に寝かせて、私は女性の方を向いた。
「それで……一緒に冒険、ですか?」
言葉通りに受け取れば、パーティーへの勧誘なんだろうけども。
「三郎ではないが、この世界の環境を考えると一緒に動ければありがたい……と、思う。少人数での部隊としてはバランスもいい」
女性は頷いて答えた。
なるほど、確かに編成としては悪くないと思う。
「今すぐとは言わないが、よかったら一緒に来ないか?女の子一人では色々と不安だろう」
女性の言葉に少し考える。
おそらくこの二人ならば戦力として申し分無い。この人もだけれど、あの変質者さんの実力も底が知れない。
能力が測りきれないまま行動するのは不安が残るけれど、人は把握できた。人格には随分問題がある二人(私の事は棚に上げておく)だけど、基本的に人が良さそう。
癖は強いけど扱いやすい。案外都合のいい人たちかもしれない。
「……そうですね、こちらとしても悪くはないです」
せめて調子が戻るまでは利用させてもらおう。
だからそれまで、
「よろしくお願いします」
こうして私は、変質者『大楽寺三郎』さんと、盾の人『シンシア・S・ガードナー』さん(三郎さん曰くシアたん)と行動をすることになった。
……なったって言うのに。
どうして早速、ガラの悪い人たちに囲まれているんだろう。
「あーぁ……」
村正ぁ。私、人選間違ったみたい。
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