たまごブログ 別館
泣き虫忍者の日記帳(SicxLives ~Link&Link&Link~)
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焔の月 二日目
忍者とは。己を殺し、主の命を持って行動する影に生きる者である。
――――――――――――――――――――――――
その任務は、私のたった十九年の人生において、間違いなく二番目に最悪な任務だった。
その帰り。人目につかないように山の中を静かに歩いていた。
帰還は別に急ぐ必要は無い。任務達成の報告は他の監視役が済ませているはずだから。
どうせ、里に戻れば処刑される。なにせ、命令とはいえ里の重役を殺したのだから。
里にとって必要な事……だったらしい。私にはよくわからなかったけれど。それでも、私が裏切り者……実行犯として捕らえられるのは命令された時からわかっていた。
だから急がなくてもいい。どうせ殺されるなら最後の時間くらいゆっくりとすごしても許されるだろう。実際に、どこかに居るはずの監視役も大人しい。
ふと。このまま監視役を撒いて逃げてしまおうかと思いついた。
馬鹿馬鹿しいなぁ、と頭を振って忘れる。そんな事をすれば里から追っ手が放たれ、確実に始末される。逃げ延びる事なんて出来るはずが無い。
「……やっぱり、どうせ死ぬんだったら楽なほうがいいよね」
手の中の友達に語りかけた。返事は無い。でも、私にはどこか悲しそうな顔をしているように思えた。それがちょっとだけ嬉しかった。
それでも、仕方が無い。村正がいくら悲しんでくれたって、もうどうにもならないのだから。
ただ少し。胸に引っかかるのはあの約束――
その時だった。大きな地震に襲われ、土砂崩れが起きた。
私はそれに巻き込まれて。そして、死んだ。
……はずだった。
気がついた場所は、薄暗い路地。眼が覚めると、私はそこに倒れていた。
「ここは……?」
死後の世界……にしては、人の気配が多い。そう、人の気配が多かった。
だとすると、ここはどこなのだろう? そもそも、私はどうして生きているんだろう?
土砂に呑まれ全身を打ちのめされる感覚も、骨を砕かれ、押しつぶされる感覚も覚えてる。なのに……。
「生きてる、よね?」
少なくとも、心臓は動いてる。怪我もなさそうだった。そこで、荷物が何も無い事に気がついた。
苦無を含め暗器の一つも、非常食も、薬もない。見につけていたはずの狐面すらもない。
そこで慌てて辺りを探ると、唯一つだけ、確かなものが残っていた。
「村正……」
良かった。村正は無事だ。思わず、安堵の息が漏れた。
……一体何が起きたんだろう。
村正を拾い上げて、私は路地を歩いた。まずは人を探そう。大丈夫、任務の時と同じようにやればいい。村正もいる。
私は現状把握のために動き出した。
「……否定の世界、かぁ」
世界の掟に触れ、世界から否定された存在が行き着く、流刑の地。
なんだ、私にぴったりの世界だ。
私は、私を追い出してくれた世界に、少しだけ感謝した。どうしようもなく最悪な世界だったけれど、今だけはお礼を言いたい気分だった。
なにせ、ここまでは追っ手も来ない。戻る方法もわからない以上、帰る必要も無い。それどころか、この世界を隔離していた壁が壊されたなんて噂もあった。……もしかしたら、ずっと生き易い世界に行く事だってできるかもしれない。
でも。いずれ別の世界に行くとしても、まずはこの世界で生きなければならない。一応食べ物は何とかなりそうだったけど、それだけじゃ生きてはいけない。
どうやら幸いにも無法者が集まる世界だけあって、略奪や強盗も日常茶飯事らしい。それなら、何とでも出来そうだ。
「万全の状態だったら、だけど」
ため息が漏れる。他に人が居なかったら村正に愚痴をこぼしてたかもしれない。
……どうやら、私の能力は大幅に制限されてるみたいだった。少し動いただけで、何年も鍛錬を怠っていたかのような、鈍った感覚がついて回る。
まあ。それでも、学生時代程度には動けそうかな。だったら、何とかなるかな?
できれば一人くらい、味方を作っておいたほうがいいかもしれない。背中を預ける仲間……なんてものは要らないけど、今の状態で一人で居続けるのはリスクが大きい。最低限、襲ってくる相手から身を守れるだけの戦力は欲しいし。
けれど、まずは。
「すいません、ちょっと作って欲しい物があるんですけど……」
私は近くに居た暗い眼の女性に声を掛けた。
「……これでよし」
村正と、そして作ってもらえる事になった狐面。装備は十分とは言えないけれど、なんとかなる。と、思う。うーん。後で石を削って苦無の一つも作っておこうかなぁ。この大きさなら一つくらいなら作れるかも。一つでもあれば役に立つし。
それにしても。こんなところで、学校の授業が役に立つなんて思わなかったなぁ。装備もなしに任務に行く事なんて無いと思ってたし。今は任務じゃないけど。
私個人で用意できる戦力はこれだけ。……うん、やっぱり心もとない。
「村正はどう……」
思う? と言い掛けて慌てて口をつぐんだ。まだ回りには人が居る。この格好は気にする人がいないみたいだけど、流石に刀と話してる所を見られたら不要な警 戒をされそう。それは望む所じゃない。出来る限り目立たないほうがいい……って。染み付いてるなぁ。もう里とは関係ないのに。
でも、しょうがないか。そうやって生きてきたし、私にはこの技以外には何も無いんだから。
さ、てっと。
味方を探す前に、少し外の様子も確認しておこう。もしかしたら、意外と一人でも何とかなるかもしれないし。……そうだといいなぁ。余計な味方は出来るだけいないほうが動きやすいし。私も楽だし。
「……いこっか、村正」
この世界で生きていく。そのための一歩。
私は村正を握り締め、街を出た。
その任務は、私のたった十九年の人生において、間違いなく二番目に最悪な任務だった。
その帰り。人目につかないように山の中を静かに歩いていた。
帰還は別に急ぐ必要は無い。任務達成の報告は他の監視役が済ませているはずだから。
どうせ、里に戻れば処刑される。なにせ、命令とはいえ里の重役を殺したのだから。
里にとって必要な事……だったらしい。私にはよくわからなかったけれど。それでも、私が裏切り者……実行犯として捕らえられるのは命令された時からわかっていた。
だから急がなくてもいい。どうせ殺されるなら最後の時間くらいゆっくりとすごしても許されるだろう。実際に、どこかに居るはずの監視役も大人しい。
ふと。このまま監視役を撒いて逃げてしまおうかと思いついた。
馬鹿馬鹿しいなぁ、と頭を振って忘れる。そんな事をすれば里から追っ手が放たれ、確実に始末される。逃げ延びる事なんて出来るはずが無い。
「……やっぱり、どうせ死ぬんだったら楽なほうがいいよね」
手の中の友達に語りかけた。返事は無い。でも、私にはどこか悲しそうな顔をしているように思えた。それがちょっとだけ嬉しかった。
それでも、仕方が無い。村正がいくら悲しんでくれたって、もうどうにもならないのだから。
ただ少し。胸に引っかかるのはあの約束――
その時だった。大きな地震に襲われ、土砂崩れが起きた。
私はそれに巻き込まれて。そして、死んだ。
……はずだった。
気がついた場所は、薄暗い路地。眼が覚めると、私はそこに倒れていた。
「ここは……?」
死後の世界……にしては、人の気配が多い。そう、人の気配が多かった。
だとすると、ここはどこなのだろう? そもそも、私はどうして生きているんだろう?
土砂に呑まれ全身を打ちのめされる感覚も、骨を砕かれ、押しつぶされる感覚も覚えてる。なのに……。
「生きてる、よね?」
少なくとも、心臓は動いてる。怪我もなさそうだった。そこで、荷物が何も無い事に気がついた。
苦無を含め暗器の一つも、非常食も、薬もない。見につけていたはずの狐面すらもない。
そこで慌てて辺りを探ると、唯一つだけ、確かなものが残っていた。
「村正……」
良かった。村正は無事だ。思わず、安堵の息が漏れた。
……一体何が起きたんだろう。
村正を拾い上げて、私は路地を歩いた。まずは人を探そう。大丈夫、任務の時と同じようにやればいい。村正もいる。
私は現状把握のために動き出した。
「……否定の世界、かぁ」
世界の掟に触れ、世界から否定された存在が行き着く、流刑の地。
なんだ、私にぴったりの世界だ。
私は、私を追い出してくれた世界に、少しだけ感謝した。どうしようもなく最悪な世界だったけれど、今だけはお礼を言いたい気分だった。
なにせ、ここまでは追っ手も来ない。戻る方法もわからない以上、帰る必要も無い。それどころか、この世界を隔離していた壁が壊されたなんて噂もあった。……もしかしたら、ずっと生き易い世界に行く事だってできるかもしれない。
でも。いずれ別の世界に行くとしても、まずはこの世界で生きなければならない。一応食べ物は何とかなりそうだったけど、それだけじゃ生きてはいけない。
どうやら幸いにも無法者が集まる世界だけあって、略奪や強盗も日常茶飯事らしい。それなら、何とでも出来そうだ。
「万全の状態だったら、だけど」
ため息が漏れる。他に人が居なかったら村正に愚痴をこぼしてたかもしれない。
……どうやら、私の能力は大幅に制限されてるみたいだった。少し動いただけで、何年も鍛錬を怠っていたかのような、鈍った感覚がついて回る。
まあ。それでも、学生時代程度には動けそうかな。だったら、何とかなるかな?
できれば一人くらい、味方を作っておいたほうがいいかもしれない。背中を預ける仲間……なんてものは要らないけど、今の状態で一人で居続けるのはリスクが大きい。最低限、襲ってくる相手から身を守れるだけの戦力は欲しいし。
けれど、まずは。
「すいません、ちょっと作って欲しい物があるんですけど……」
私は近くに居た暗い眼の女性に声を掛けた。
「……これでよし」
村正と、そして作ってもらえる事になった狐面。装備は十分とは言えないけれど、なんとかなる。と、思う。うーん。後で石を削って苦無の一つも作っておこうかなぁ。この大きさなら一つくらいなら作れるかも。一つでもあれば役に立つし。
それにしても。こんなところで、学校の授業が役に立つなんて思わなかったなぁ。装備もなしに任務に行く事なんて無いと思ってたし。今は任務じゃないけど。
私個人で用意できる戦力はこれだけ。……うん、やっぱり心もとない。
「村正はどう……」
思う? と言い掛けて慌てて口をつぐんだ。まだ回りには人が居る。この格好は気にする人がいないみたいだけど、流石に刀と話してる所を見られたら不要な警 戒をされそう。それは望む所じゃない。出来る限り目立たないほうがいい……って。染み付いてるなぁ。もう里とは関係ないのに。
でも、しょうがないか。そうやって生きてきたし、私にはこの技以外には何も無いんだから。
さ、てっと。
味方を探す前に、少し外の様子も確認しておこう。もしかしたら、意外と一人でも何とかなるかもしれないし。……そうだといいなぁ。余計な味方は出来るだけいないほうが動きやすいし。私も楽だし。
「……いこっか、村正」
この世界で生きていく。そのための一歩。
私は村正を握り締め、街を出た。
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