たまごブログ 別館
泣き虫忍者の日記帳(SicxLives ~Link&Link&Link~)
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一揆日記二十三日目 揚羽代筆 戦闘加筆版
○月 ××日 代筆:揚羽
朝からずっと顔色が悪い。
どこかぼうっとしているし、時々苦しそうに表情が歪む。
見て取れるほどに体調が悪いようだった。
それでも、探索中は気持ちが切り替わるのか、問題なく進行し、目的のエンブリオとも契約することが出来た。
新たに契約したエンブリオ、フォッセグリムは少年の姿をしたエンブリオだ。
少し変わった性格をしているようだったけれど、今後は頼もしい戦力になってくれると思う。
代わりに、これまで契約していたコルンヴォルフとは、契約を破棄する事になった。
まぁ、コルンヴォルフとは私が再契約して今もマスコット的に一緒に居るわけだけども。
これで私が契約しているエンブリオが、ファルコン、マーメイド、ポーン、コルンヴォルフの四体になった。
ちなみにガーゴイルはメリファンが再契約していて、船の警備に働かせている。
と、なんとか探索は終わったのだけど、その後ティアはテントでなく船に戻って、今もずっと布団から起きあがれないでいる。
ティアに施されている封印は、強力ではあるものの絶対じゃない。
精神的に大きな負荷がかかれば不安定になり、肉体へも負担をかける。その逆もまた同じ。
目が覚めたら詳しく診るから、逃げないように。
* * *
――ティアの様子がおかしい。
魔力を使いすぎたわけでもなく、まだリセットが来るには早い。
だと言うのに、封印が不安定になり体調を崩している。
昨日ティアが倒れていた状況から察するに、あの当時の日記を読んだのだろう事は予測がついた。
それによって封印が不安定になるほどにショックを受けたのだろうけれど……、それにしては症状が酷かった。
ひとまず、簡単な治療と薬を飲ませて大人しくさせたけれど、近いうちにしっかりと検査した方がいいのかもしれない。
船の動力もある程度戻ってきているし、メリファンにはそのつもりで準備するように伝えてある。
あとはティアが目を覚ましたら、探索の前にすませてしまえば良い。
……問題は、私がそれまでに帰れるかどうかだけれど。
(……囲まれた)
周囲に意識を向ければ、至る所に蠢く黒い影が存在している。
可能な限り気配を殺し、じっとしているから未だ気づかれていないけれど、下手に動くのはリスクが大きかった。
――影を生み出し統率しているだろう、断片を飲み込んだ影の母胎を探して、ようやく居場所に目星をつけられたものの。
踏み込んだ森林には、無数の影が蠢いていて思うように探索出来ずにいた。
今私を囲んでいる影達は、何れ方々へ離れていく。それを待って動いて……と、何度繰り返したか。
影は私を見つけている訳ではないのだろうけれど、余りに数が多いため、どうしたって囲まれてしまうタイミングがあった。
こうも遅々として進まないとなると、強行突破も考えたくなるけれど。私のそれは時間制限もあるため、やはり安易にとれる選択じゃない。
けれど力を借りずに、今のまま下手に影と戦闘を行えば、私に単純な物理的手段しか無い以上、今よりも囲まれることになる。
物理的手段で影を倒すには、あの不定形な存在を強力な光を当てることで固定しなければならない。
そのための備えはしてある物の、一度行えばこの森中の影を引き寄せてしまうだろう。
さすがに、それだけの物量に対抗できるほどの用意はしていない。
……となれば、このままじっとしているか、力を借りて制限時間のうちに可能な限り奥まで踏み込んでみるか。そのどちらかしかない。
もちろん、前者に比べて後者は、随分と分の悪い賭けになってしまうけれど。
(どうしたものかしらね)
目の前を影が通り過ぎていく。
もちろん私に気づく事はなかった。
気配を消すと言うことは、周囲の背景と同化することとかわらない。
今の私は、影から見ればその辺の木や茂みとなんら変わらない舞台装置の一つだ。
見えていても、判別できず認識されない。これが私の身に付けた隠行術。私の母、比良原蛍の用いた隠行の極み。
しばらくすると、周囲の影も減りはじめ、多少動いても見つからない程度の密度となっていた。
音を立てず慎重に歩を進め、また少しずつ森の奥へと進んでいく。
しばらく移動を続けると、奇妙なことに影の数が減り始めていた。
(妙な感じ……。奥に行くほど、影が少なくなっている?)
夜の闇にとけ込んでいて、見逃しているだけかもしれないけれど、それにしても数の減少は顕著だった。
奇妙な違和感を感じて仕方ない。
なぜだろう。ただ、影が減っているだけにしては、胸騒ぎがする。
(……そうか、この森は静かすぎるんだ)
夜の森にもあってしかるべき、虫や鳥の声。夜行性の動物達が動く気配。そういった雑音が、一つも聞こえない。
聞こえるのは、風の音と葉が擦れる木々の音。
まるで、森が死に絶えてしまったかのような……、
「――っ!」
死の静寂に混じる異音。
間一髪でソレを避けて、私は木の上に飛び乗り、枝葉の中に身を隠した。
風を切り飛来したのは、ウィンドカッターと呼ばれる、エンブリオ:シルフの扱う魔法の一つ。
わずかな隙間から覗き見れば、妖精のような小さな姿が確認できた。
(……そういう事か)
そのシルフに属するだろう、小さなエンブリオは。
全身を黒い影に覆われていた。
(この森は、もう死んでる)
きっとあの影は、この森を食ったに違いない。
この森に住んでいたエンブリオを。魔物を。動物を。あらゆる生物を食らいつくし、混沌の支配する死の森へと変貌させた。
つまり、この森のすべてが影の支配下にあり、私の敵はこの森そのものだ。
(けど、どうやって私を捕捉した……?)
当然、気配は消していた。
ここまで影に気づかれた様子は一度もない。いくらエンブリオの体を手に入れたとしても、それだけで私を捉えられるほど、これは生半可な技じゃない。
だとしたら、魔法?
たしかに魔法に対して、私は万全と言えるほどの対策はとれていない。
いくつかの魔法に対しては何らかの手段をとっているものの。それ以外に関しては対応し切れていない。
何らかの魔法によって私を認識したのだとしたら、こちらが気づくよりも早く攻撃を仕掛けられても不思議じゃない。
けど、だとしたらどうして今、私を攻撃してこないのか。
魔法によって私を捕捉出来るのなら、こうして多少身を隠したところで関係ないはずだ。
それこそあのウィンドカッター程度であっても、周囲の枝葉ごと狙う事も難しくは無いはず。
何かを見落としているような気がする。なにか、手がかりになる何かを。
(……っ、あまり、時間が無いのに)
このまま時間が経てば、他のエンブリオや魔物等も集まってくるはず。
けれど下手に動けば、それもまた狙われる事になる。潜んでいたのがあのシルフだけとは限らない。
今、この森のすべての生物は、影が支配しているのだから。
(……すべての、生物?)
考えるよりも早く、体が動いた。
一つの球を取り出し、木の幹へ叩きつける。
音もなく破裂したその球から、白いもやのような煙が吹き出した。
この煙は、神経を麻痺させる毒薬。
人間が吸ってもしばらく動きづらくなる程度で、私のように耐性があればまるで効果の無い、強力とは言えない毒薬だ。
……けれど。
昆虫程度になら、非常に強い効果を発揮する。
煙が充満して、直後。
突然周囲で、もがくような羽音が聞こえだした。
なぜ気づけなかったのか疑問に思える程の、多くの羽音。
おそらく、この中にまともな人間なら致死となる毒を持った虫も居たに違いない。
あのシルフは、虫たちが私を襲うのがわかっていたから、攻撃を必要としなかったんだ。
毒の効果を確認する間も無く、私は即座に別の木へと飛び移った。
その直後、毒煙を枝葉ごと切り裂いて、風の刃が奔る。
なんとか避けはしたものの、虫達に対処してしまった以上、集中攻撃を受けるのは間違いない。
(こうなれば、こっちも強硬手段をとるしか……っ!?)
危険を感じて直感に従い枝から飛び降りた。
その直後、黒い光の奔流が、乗っていた木の半分近くを消滅させる。
……シャイニングバタフライ。
ユニコーンの使う魔法。色が黒いのは影の支配を受けているからだろう。
どうやら魔力も大幅に上がっているらしい。
躊躇している場合ではなさそうだった。
「――神気解放」
自身の奥深くにある扉を開く。
そして、彼女と自分を繋げ、力を譲り受けた。
髪が茜色に染まり、視界が一瞬赤く染まる。
今回は薬を使わない。その代わり、視界の色が戻るのを待たず、ベルトを巻いた。
「変身」
タブレットをはめ込むと、電子音声と共に魔力が体を包んでいく。
世界に色が戻ると、私の体を強化外骨格が覆っていた。
外骨格の各部には茜色の装甲が加わり、以前よりも出力があがっている。
神気の解放と、マスカレイドシステムの同時使用。
本来なら私の体を壊しかねない力の流れを、システムへと向かわせることで体への負担を軽減し、同時に外骨格の強化を図った。
本来の仕様とはやや離れた使い方のため、少しシステムに手を加える必要があったけれど。
変身を終え着地するとすぐさま地を蹴って、先ほど魔法を放ったユニコーンへと接近する。
影に覆われたユニコーンは迎え討つつもりなのか、黒い光を身に纏ったけれど、あまりにも遅い。
五メートルの距離を一息で詰め、刀――正宗を抜き放つ。
馬の首をはね飛ばし、胴体を蹴って盾にした。
一瞬後になってまた風の刃が放たれたけれど、ユニコーンの体が壁になり、私へと届いた魔力は僅か。
その程度なら避ける必要もなく、外骨格が難なく防いだ。
そして周囲に飛び散った血しぶきに紛れ、今度はその黒い妖精へ肉薄する。
倒し損ねて魔法を使われるのも面倒なため、その小さな体を掴み、潰す。
イヤな感触を投げ捨て、足下に揺れを感じると同時に外骨格へ翼を生成し、飛翔する。
私を追うようにして鋭い木の根が二本、地面から突き出してくるけれど届かない。
そして空中で視界にフィルターをかけて魔力の流れをたどる。
元を見つけると、それにめがけて足を伸ばし急降下。
これぞライダーキック。
(……なんてね)
ドライアドの体を吹き飛ばしながら着地すると、森の奥へ向かって駆けだした。
それまでと比べて数倍のスピードで、暗い森を駆け抜ける。
この状態で居られる時間はおよそ十分程度。
それを過ぎれば、システムがエラーを起こして変身は解除されてしまう。
システムに過剰な負荷を掛けているのだから当然だけれど、これは改良の余地がありそうだった。
(……大分奥の方まできたけど)
森は深く、すでに空は殆どを木が多い尽くしている。
夜目を鍛えて居なかったら視界は無いに等しかっただろう。
それほど深くまで進んだというのに、未だ母胎の姿も、気配すら感じられない。
ここには居ないのか、それとも……
「――――っ!」
突然、体から力が抜けて膝を突いた。
ベルトからエラー音声が響き、変身が強制解除される。
限界時間だった。
神気の供給を止め、髪と瞳の色が元に戻ると、強烈な頭痛と吐き気に倒れそうになる。
『いい加減、受け入れたらどうだ?』
頭の中に、あざ笑うような声が響く。
『力を受け入れて、神になっちまえよ。そうすりゃぁ、その力も使い放題だぜ』
言葉が徐々に意識を浸食していく。
心が揺らぎ、意識が向こう側に傾いていくのを、唇を噛んで耐えた。
『まだ抗うのか。とっくに人間でも神でもない化け物の癖に』
「……私は、化け物で十分よ。中途半端な化け物で、もう十分……!」
声を振り切るように立ち上がると、意識は鮮明さを取り戻し、声は聞こえなくなった。
けれど、その代わりに奥の茂みから黒い人型が現れる。
「……ローバル?」
それにしては、奇妙な姿だった。
おそらく成体なのだろうローバルは、あまりにも暗く、闇色に染まり、影を纏っている。
(まさか……)
その姿に、唐突に思い当たる。
ローバルもまた、成体ともなれば実体を持ち、本能的とは言え精神活動を行う。
となれば。
「……喰われた、か」
恐らくこのローバルは影に喰われ、支配されているのだろう。
そこまで思いつけば、ローバルが影と共に居る理由も、影がローバルの近くに居る理由もわかる。
影は、得意な存在ではあるけれど、魔力の固まりだ。
魔力を糧にするローバルにとっては、恰好の食料なのだろう。
……そして、影を喰い実体を得たローバルは、影にとっても十分な餌となり、手足となる。
互いに食い合いを繰り返し、離れない。
あまりにも不気味な関係だった。
(能力は未知数……でも、実体があるのなら)
力を使えなくても、倒すことは出来る。
納刀した正宗を構える。
消耗した状態では動き回るのも、打ち合うのも危険。
なら、一撃で倒すしかない。
そう覚悟を決めて踏み込んだ刹那の間。
凄まじい悪寒を感じて、全力で真横に飛んだ。
その瞬間、あたりを埋め尽くすほどの闇色の魔力が迸り……、ローバル共々、私の体を吹き飛ばした。
痛みを感じる間もなく意識は途切れ。
頭にあざ笑う声が響く中、私は闇に飲み込まれた。
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焔の月 十八日目
――私にとって、思い出とは痛みの記憶。
私は友人が少ない。
それこそ友人と呼べたのは、先輩たち三人くらいなものだった。
けど、そんな数少ない友人の中でも彼女は特別で、それは多分、親友とでも呼ぶべきだったのだろう。
例に漏れず、孤児だった彼女は、拾われてくノ一科へと入れられた。
自傷癖のあった彼女は、三人の仲で一番成績が悪く、科内でも落ちこぼれと言われていた。
そんな彼女が、私にとって一番の友人だった。
てすと
あいうえお
かきくけこ
かきくけこ
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